藤島知子

モータージャーナリストの仕事は軽自動車からスーパーカーまで、じつに幅広いジャンルのクルマに乗らせていただく機会があります。いろんなクルマを乗り比べてみると、ガラス越しに見える景色によって、ドライブする気分が随分と変わるものなのだなということに気がつきます。

日本の道路環境は狭い場所も多いものですが、混み合った場所を走るときはガラスエリアが広くて、運転席からの死角が少ないクルマだと安心できるもの。そんな環境で走らせやすいコンパクトカーが人気ですが、拓けた視界にこだわるホンダの4代目フィットは5ナンバー車でありながら、もっと立派なクルマに乗っているかのような視界感覚を与えてくれる。航空機メーカーから由来したスバルは運転視界を0次安全と捉え、クルマをデザインする際のプライオリティが高いことも有名な話です。

私が愛車として乗っていたフィアット500はイタリアの国民車らしく、素朴でフレンドリーなデザインながら、死角が少ないクルマでした。ただ、電動ドアミラーの設定がなかったので、機械式駐車場に入庫する時は、助手席のサイドウインドウを開けて運転席から手を伸ばして畳んでいたのも、今となっては微笑ましい思い出です。

また、最近ではSUVが大人気。都会派のクロスオーバーSUVもあれば、悪路を突き進むランドクル—ザーのようなクロカン系など多彩なモデルが存在していますが、地上高を高めた車体は、背が低いクルマと比べて圧倒的に見晴らしの良さが得られるものです。アイポイントが高いSUVの場合、ガードレールや壁に遮られてしまう筈の景色が望めたりして、同じ道を走っているのに、冒険的な気分に浸れてしまうのも凄いところ。

話は変わりますが、窓面積の広さでインパクトを受けたモデルは、フランスメーカー、シトロエンのミニバン『C4ピカソ』。天井にパノラミック・ガラスルーフを備えているほかに、パノラミック・フロントウィンドウと呼ばれる乗用車としては最大規模の面積を誇るフロントウィンドウを備えていました。前席に座ると、まるでヘリコプターのキャノピーにいるような不思議な感覚。景観のいい場所を走ると、自分が景色の中に飛び込んでいくようで、最高に気持ちのいい体験ができました。昔、ある友人がフランス人の彼の実家を訪れた時のこと、彼の家族は天気がいいと陽射しを浴びて過ごすことが多かったようで、「つくづく、フランス人は日光浴が好きな国民なのね」という話を聞いた覚えがあります。

そんな話を思い出すと、ガラスエリアの広さこそ、彼らが求める豊かさに繋がるのかも知れないと思うようになりました。かつては、C3にもパノラミック・フロントウィンドウが採用されていましたが、陽射しが強い日に運転して驚いたのは、陽射しのダメージを受けにくかったこと。私は運転中に陽射しを浴びていると肌が赤くなりがちなのですが、このクルマのフロントガラスは紫外線だけでなく、車内の温度上昇が巧く抑えられている感じがしました。お肌は一生ものですから、少しでもダメージを減らしたいもの。そんな気持ちを汲み取るガラスの機能性は有り難いものです。

最近の自動車ガラスは他にも色んな機能性が備わっています。例えば、遮音ガラス。主に快適性を突き詰めた高級サルーンやモーター走行時に車外のノイズが目立ちやすい電気自動車やハイブリッド車の場合、遮音性を高めるフィルムを内蔵したガラスを採用しているケースが増えました。それ以外にも、スイッチの切り替えで遮光したり、赤外線を跳ね返す効果が得られる調光ガラスを採用している車種を見かけます。

移動の時間を快適にする技術の進化は歓迎したいものですが、いま自分が乗っているクルマでも、フィルムやコーティングの施工で断熱効果を高められます。温暖化が進む時代だからこそ、車内の温度上昇、お肌や内装、車内に積む荷物のダメージを抑えたいという人には、ぜひ注目してみて欲しいと思います。

藤島 知子 モータージャーナリスト

藤島知子2002年よりレースに参戦する傍ら執筆活動をスタート。現在はレース活動で得た経験や女性目線をもとに自動車専門誌、Web媒体、女性誌などに寄稿している。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』ではクルマの楽しみをお茶の間の幅広い世代に向けてレポート。レース活動も行っており、スーパー耐久シリーズにシビックタイプRやマツダ ロードスターでスポット参戦。2023年は女性ドライバーのレースKYOJOカップに参戦。日本自動車ジャーナリスト協会理事、2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。